第14回日本摂食嚥下障害看護研究会「研究会抄録・略歴」

 

塩野崎淳子先生 抄録   

「食べたい想いを支える」~意思決定にどう立ち合いますか シンポジウム「食べる・生きるための意思決定に立ち合う」

医療法人豊生会 むらた日帰り外科手術クリニック 管理栄養士 塩野崎淳子

当院では、「顔の見える地域の管理栄養士」を目指して、「認定栄養ケア・ステーション訪問栄養サポートセンター仙台」を開設し、在宅医療を受ける方の栄養ケアを中心に在宅訪問栄養食事指導を行っている。訪問栄養指導の依頼目的の内訳をみると、約半数が「嚥下調整食の指導」であり、さまざまな疾患・病状・年齢の方からの依頼がある。「嚥下障害があっても、口から食べること」を望み、「胃ろうなどの経管栄養をしない」という選択をした患者がほとんどだが、中には胃ろうと経口摂取を併用しながら、嚥下訓練を実施して食べる機能を回復させた患者もいる。

食事は、生命を維持するために必要な、水分や栄養を摂取するという目的だけでなく、季節の料理や行事食を楽しむといった文化的側面、親子のふれあいや人と人の交流のための「共食」としての社会的側面もある。病院で提供される食事は、栄養管理された「治療のための食事」である。しかし、ひとたび患者が地域へ帰れば、それは「暮らしの中の食」となる。暮らしの中で、患者が何を大切にしたいのか、食を通して得られる生活の喜びを取り戻すにはどうすればよいのかを共に考え、患者の状態に合わせたオーダーメイドの食事を提案するのが在宅訪問管理栄養士の仕事である。

患者の摂食嚥下機能を補う嚥下調整食を提供し、生命維持のための必要な栄養量を確保するために工夫を凝らしても、徐々に必要栄養量が取れなくなるケースもある。特に高齢者の場合は強制栄養を望まない患者や家族も多い。今回のシンポジウムでは、週に3回の訪問言語聴覚士の嚥下リハビリを継続しながら、ゆっくりと低空飛行で「食べる楽しみ」を維持し、亡くなる前日まで口から食べて穏やかに着地したある高齢男性患者の事例を通して、「在宅看取りと意思決定支援」について参加者の皆様と共に考えてみたい。

塩野崎淳子先生 略歴

勤務先 

医療法人豊生会 むらた日帰り外科クリニック内 訪問栄養サポートセンター仙台
医療法人財団はるたか会 あおぞら診療所 ほっこり仙台

【略歴】

女子栄養大学実践栄養学部卒業後、長期療養型病院にて4年間栄養管理を担当し、2008年 訪問看護ステーションの居宅介護支援専門員としてケアプラン作成業務にあたった。その際に在宅医療における栄養ケアの必要性を痛感し、2013年仙台往診クリニック非常勤管理栄養士として在宅訪問栄養指導を開始。2015年むらた日帰り外科手術クリニック内に「訪問栄養サポートセンター仙台」を立ち上げ、在宅訪問管理栄養士として活動している。2020年1月より医療法人はるたか会あおぞら診療所ほっこり仙台でも小児在宅医療における在宅訪問栄養指導を実施している。

【資格・役員】

管理栄養士

介護支援専門員

日本栄養士会認定在宅訪問管理栄養士

日本在宅栄養管理学会理事 東北ブロック長

日本褥瘡学会 褥瘡栄養対策委員

【執筆等】

・読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」にてコラム「在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活」連載中(2016年4月より現在も継続中)

・在宅医療の専門雑誌「在宅新療0-100」株式会社へるす出版にて巻頭カラー「人を良くする在宅レシピ帖」連載 2016年1月創刊号~2017年12月号

・「高齢者を低栄養にしない20のアプローチ」吉田貞夫編著 メディカ出版 共著

・「口から食べる幸せをサポートする包括的スキル」第2版小山珠美編集 医学書院 共著

・「多職種で取り組む食支援」 古屋聡編 南山堂 共著

・「在宅医療で働く人の1日」保育者 インタビュー(在宅訪問管理栄養士のページ)

・リハビリテーション栄養学会 学会誌2018.10 Vol.2 No.2 特集「セッティング別のリハビリテーション栄養」の訪問栄養指導担当

・日本在宅栄養管理学会誌特集「新型コロナ禍における在宅栄養管理-現状と課題- 新型コロナ流行期における訪問栄養食事指導実践報告」JHNMS Vol.7 No.1 2020

【アドバイザー・講師】

仙台市地域包括ケアのための地域ケア会議にて管理栄養士アドバイザー(平成25年より)

地域包括支援センター主催の介護予防教室講師 

宮城県立白石高校 看護科 非常勤講師

金成建太郎先生 抄録   

第14回 日本摂食嚥下障害看護研究会 シンポジウム「食べる・生きるための意思決定に立ち合う」摂食嚥下障害における倫理的問題 

長町病院 リハビリテーション科医師 金成建太郎

摂食嚥下障害に対する倫理的判断は難しい問題であり、私自身も藤島一郎先生の御講演や文献から学ばせていただいているところであります。

倫理的価値判断を行う場合、倫理の4原則(自律尊重、善行、無危害、公正)に基づいて判断を行わなければなりませんが、よい倫理的価値判断を行うためには、正しい事実認識が必要です。つまり目の前の摂食嚥下障害が治癒可能な病態なのか、あるいは治癒不可能な病態なのかについて適切な診断を行い、治療法を選択・提案することが必要です。しかし、それ以前に“気づきの欠如”に注意しなければなりません。「高齢だから仕方ない」など先入観による無意識の差別が正しい事実認識を妨げる可能性があります。

摂食嚥下障害が他の疾患と異なり複雑な状況におかれている理由としては、原因・経過が一様でない、複数の科が関与、職種による考え方の違い、患者さん・御家族の価値観の違い、など様々な要因があります。

摂食嚥下障害の診断と治療に関するガイドラインとしては、日本耳鼻咽喉科学会より「嚥下障害診療ガイドライン2018年版」が発行されていますが、その中の文献を元にしたClinical Questionsでは、嚥下訓練のエビデンスについて『多くの症例報告が蓄積されているが、嚥下訓練の有用性に関するエビデンスの高い研究は多くないのが現状である』と述べられています。

そのような状況の中で患者さん・御家族に病状を説明して理解いただき、治療方針を検討しなければなりません。特に改善が望めない又は進行・悪化する病態の場合は、話し合いとコミュニケーションが重要です。倫理原則の第一は 自律尊重(自己決定)であり、自己決定には「意思能力」が必要です。結論以上に大切なことはその結論を出すためのプロセスであり、その人のために皆で考えることです。

以上の内容につきまして自身の経験を交えて発表いたします。

金成建太郎先生 略歴

【勤務先】
宮城厚生協会 長町病院 リハビリテーション科 部長

【略歴】

1996年3月 秋田大学医学部 卒業
1996年4月 宮城厚生協会 坂総合病院にて初期研修
1999年9月 宮城厚生協会 坂総合病院 リハビリテーション科 医員
<2001年4月~2003年3月 出向研修>
2001年4月~2002年4月 横浜市立大学附属病院 リハビリテーション科
2002年5月~2002年8月 東海大学附属病院 リハビリテーション科
2002年9月~2003年1月 聖隷三方原病院 リハビリテーション科
2003年2月~2003年3月 東北大学病院 肢体不自由リハビリテーション科
2004年4月 宮城厚生協会 長町病院 リハビリテーション科 医長
2006年6月 宮城厚生協会 長町病院 リハビリテーション科 科長
2009年10月 太田熱海病院  リハビリテーション科 センター長
2010年10月 太田西ノ内病院 リハビリテーション科 センター長
2011年8月  宮城厚生協会 長町病院 リハビリテーション科 部長

【資格等】

日本リハビリテーション医学会 リハビリテーション専門医・指導医
仙台市 身体障害者福祉法(15条)指定医

 

佐藤秀樹先生 抄録  

「食べたい想いを支える〜意思決定にどう立ち会いますか〜」「食べたい」患者様へのチームアプローチ実践のジレンマ

居宅介護支援事業所 ひかり 主任介護支援専門員 佐藤秀樹

在宅では、様々な要因(脳血管障害・慢性期・認知症の進行・加齢による体力低下など)が重なり、摂食嚥下機能が低下し、誤嚥や窒息を防ぐため絶食になる要介護者を抱えている。

「死んでもよいから食べ続けたい」「本人が望むなら食べて最期を迎えてほしい」という本人・家族の希望をかなえるためチームアプローチによる支援を行っているが、在宅では検査や評価が難しい、嚥下機能に合った食事を提供できない(ご家族が何を作って食べさせて良いかわからない。)などから、経口摂取を続けるには限界がある。

支援者の最前線であるヘルパーは、誤嚥・窒息の危険がある不安の中食事介助を行うことも多い。

実際に窒息事故に居合わせたヘルパーはトラウマになってしまい仕事を続ける事ができなくなった者もいる。逆に、支援者の中には禁食で食べられず、苦しむ要介護者の想いに引っ張られ、飲食させてしまう者もいる。どちらの場合もヘルパーの人生を変えてしまう恐れもあり、本人・家族の支援だけではなく、支援者側への配慮も重要となっている。

ケアマネジャーとして、本人・家族の「食べたい気持ち」を優先するのか、支援者の不安解消のため「安全のため禁食」を優先するのかジレンマに陥ってしまう。サービス担当者会議を開催し本人・家族、各専門職とで検討するも、嚥下障害の場合は生死に関わる問題に発展するリスクが高いので、本人の意思ではなく、支援者の意向・安全優先で「禁食」とする会議になってしまうこともある。また誤嚥・窒息の危険を説明し事故対策のための「同意書を交わす」が目的となってしまい、積極的に経口摂取に取り組む検討は難しい。

この度、「人生会議」(Advance Care Planning)を重ね、本人の価値観や気持ちを多職種で共有でき、意思決定に対して、本人・家族・支援者の心の負担を軽くできた症例を報告する。

佐藤秀樹先生 略歴

【勤務先】
豊かな心株式会社 ナーシングホームあかり 居宅介護支援事業所 ひかり

【学歴】

学校法人 菅原学園 仙台福祉専門学校 福祉学科 平成9年3月卒業

【職歴】

平成09年4月  医療法人本多友愛会 老人保健施設 はくあいホーム 入社
平成10年8月  医療法人社団 朝倉会 老人保健施設 あさくらホーム 入社
平成16年6月  医療法人社団 清風会 介護老人保健施設 清風 入社
平成26年8月  株式会社オオノ ひかり健康プラザ 入社
平成29年3月  医療法人社団 静実会 ないとうクリニック複合サービスセンター 入社
令和03年4月  豊かな心株式会社 ナーシングホームあかり 居宅介護支援事業所 ひかり入社  

白坂誉子先生 抄録 

“食べたい”想いを「生きる」につなぐ援助と課題

合同会社トライ・アス/デイサービスとらい・あす 摂食嚥下障害看護認定看護師 白坂誉子

生活期において要介護高齢者は複合疾患を抱えていることが多く、加齢や認知症の影響を受けて嚥下障害も複雑化します。医療機関の在院日数の短縮により急性期を脱しても栄養状態や耐久力の改善が十分でないまま在宅へ戻るケースや、回復期リハビリテーション病棟(あるいは病院)を経由していても入院期間の制限により経口摂取への移行の途中で在宅へ戻るケースも少なくありません。

要介護高齢者は、生活環境の変化やわずかな体調の変化で食欲の低下や食事量の減少をきたし、容易に脱水や低栄養状態となります。さらに活動低下や認知機能低下、肺炎等の感染症につながるといった悪循環に陥ると、それまで可能であったサービスの利用も難しくなり、介護負担の増大を招きます。また、神経難病など進行性の疾患を抱えた療養者は、ADLの低下と前後して嚥下機能の低下をきたし、低栄養や誤嚥性肺炎のリスクが高い状態で療養生活を続けることとなり、介護者の負担も大きくなります。

訪問看護ステーションや訪問歯科診療等で専門職による嚥下機能評価や嚥下訓練、摂食指導が継続できるようになりましたが、まだまだ十分とは言えず、通所介護や訪問介護においては、摂食嚥下に関するリスクを抱えた対象者に適切に対応できる事業所も職員も少ないのが現状です。

このように生活期においては、「食べる」ことは「生きる」ことに直結することが多く、療養者本人の嚥下機能だけでなく、介護力や活用できるサービス等の支援体制により大きな影響を受けます。意欲はあっても思うように食べることができないケースや、リスクや負担を抱えながら「生きる」ために、あるいは家で暮らすために「食べる」をどうするか悩むケースも多々あり、「食べたい」想いを支えることは簡単ではないと実感します。それらのケースを紹介しながら、暮らしの中で「食べたい」想いを「生きる」につなげる援助や課題について考えたいと思います。

白坂誉子先生 略歴

白坂誉子(しらさか たかこ)
【勤務先】
デイサービスとらい・あす

【略歴】
聖路加看護大学卒業
北里大学東病院、日本医科大学千葉北総病院、茨城県立医療大学付属病院勤務を経て、訪問看護ステーションわっか、在宅総合ケアセンター元浅草にて6年間在宅医療・在宅看護を実践する。
2005年 茨城県立医療大学保健医療学部看護学科に勤務し、基礎看護教育に関わる。
2007年から2012年まで同大学地域貢献研究センター 認定看護師教育課程にて摂食・嚥下障害看護認定看護師の養成に携わる。
2012年 医療法人社団恵仁会 セントマーガレット訪問看護ステーション 勤務
2015年 合同会社トライ・アスを設立
2016年 デイサービスとらい・あすを開業し、現在に至る

【資格・社会活動】
看護師、保健師、居宅介護支援専門員
日本看護協会 摂食・嚥下障害看護認定看護師
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 評議員

富樫慎太郎先生 抄録

「研究計画をデザインする(仮)〜巨人の肩の上に立つ〜」

一般財団法人厚生会 仙台厚生病院看護部 東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 博士後期課程 富樫慎太郎

2019年の本会において「クリニカルクエスチョンからリサーチクエスチョンへの転換」について講演が行われました。今回は、これに関連する、研究計画をデザインすることに焦点を当ててお話致します。
研究において「なぜ?」「どうなるのか?」という疑問を、PECO/PICOに構造化して、研究計画、研究実践、結果の公表を行うことが一般的な流れです。研究全体において最も重要な認識は、「研究結果は、研究計画に大きく依存する」ということです。
しかしながら、私の経験を振り返ると、臨床現場で働く中、方法もわからず、研究計画をすることはとても難しかった記憶があります。そんな私の経験や先人達から学んだ、研究計画をデザインすることのTipsを、ご参加下さる皆様にお伝えできれば幸いに思います。
Standing on the shoulders of Giants. by Sir. Isaac Newton.
表題に関するおすすめ書籍
1.近藤克則. 研究の育て方. 医学書院. 2018.
2.イアン・K・クロンビー. 医療専門職のための研究論文の読み方. 金剛出版. 2007.
3.木原雅子他. 医学的研究のデザイン-第4版. メディカルサイエンスインターナショナル. 2014.
4.福原俊一. 臨床研究の道標-第2版. 特定非営利活動法人 健康医療評価研究機構. 2017.
5.康永秀生. できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則. 金原出版. 2017.
6.名郷直樹. ステップアップEBM実践ワークブック. 南江堂. 2009.

富樫慎太郎先生 略歴

2009年 山形県立保健医療大学看護学科 卒業
2009年 一般財団法人厚生会 仙台厚生病院看護部 勤務
2011−2014年 みやぎ東部循環器科 出向
2018年 心臓リハビリテーション指導士 取得
2020年 東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻内部障害分野 博士前期課程修了